歴史・風土・民俗学: 2005年10月アーカイブ

 始めに述べて置くが新刊本屋で本書を手にしたときまったく購入したいと思わなかった。これは定価2200円に値しないと思ったためである。それを古本屋(神保町 大雲堂)で1200円で売っていて、資料として持っていてもいいだろうと敢えて買ったのだ。ちなみに大雲堂はこの分野のものも専門に扱う店で、分野の本の値段は言うなれば評価だと考えていい。現に新刊本で並んでいるものが半額なのだ。まず、この本の問題点は著者にあるのか編集者にあるのか疑問である、そこのところをふまえて読んで欲しい。
 まずいけないのが情報源が原文ではなく事典や小説からのものを平気で使っている。また情報源があまりに少ない。少ないと言うことでサバというものを著者自体が把握していないように思えるのだ。例えばサバには2種類いる。マサバとゴマサバであるが、この2種は鮮魚流通でも加工業でも大きな違いを持っている。またサバ属の幼魚や小さなものもそれぞれ取り扱いが違うのである。そんなことを述べてからすすめるべき漁や食べ方の話が、これがないために、また調べたデータ量が少ないことも相まって散漫で不正確なのだ。このことは信仰や文芸、流通など総てに共通する。また同じことの繰り返しが多いのも編集方法として不思議だ。
 サバに関する資料として持って置いても悪くはないが、その資料の信頼性は薄い。サバに関する本は少ないので、もっとしっかりした編集と資料集めをして欲しかった本。
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雄山閣 2200円 2002年

 鵜飼と言えば長良川、その観光的要素が目についてあまり調べてみる気にもならなかった。それが神保町の古本屋で100円本の中から「鵜飼」の文字を見つけてつい買ってしまったのが、これである。これがなかなか面白い、中国、インド、エジプトにも起源がたどれる鵜飼はやはり稲作とともに入ってきた。そして魚をとる手段として始まり、天皇家、貴族へのアユの貢ぎもの。そしてこの特権階級での遊技としての鵜飼から現在の観光鵜飼へと通じている。そんな表面的な歴史だけではなく常民による鵜をヒモでつないで歩きながら魚をとるもの。当然のことだけれど食料としての魚をとる鵜飼が日本各地で行われていたことなど、資料としても持っていたい本である。
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中公新書 定価200円 1966年

『南総里見八犬伝』の作者・滝沢馬琴、義理の娘・路は詳細な日記をつけていたので有名である。それが江戸の町民、ご家人といった庶民の暮らしの貴重な資料でもある。この本の素晴らしいことはその膨大な日記内の実生活に関わる部分にスポットを当てたところである。滝沢馬琴は18世紀から19世紀の江戸文化の最盛期を生きた人であり、人気作家であった。当然庶民よりも贅沢な暮らしぶりではあったろうが、身分は町人、そしてご家人(身分の低い侍)である。その祝儀での魚(お祝いとしての)のやりとり、また病人食、歳時などポスイットが増えて困るほどである。魚貝類や歴史が好きなら必読書。資料性も高く、これを新書として出版してくれたことに感謝したい。
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中公新書 780円 2003年

 福島に魚貝類を見に行って、しまったと思ったのは本書を通読してから行くべきだったということ。歳時記や風土記と名が付くと、歴史や由緒、また祭などだけの本であり、実際の風土や生物利用、また町のことなどは皆目わからないものが多い。これらの本は、民俗学に興味のある人や、書いているご本人には興味があっても、他県者や「け」のことを知りたい向きにはなんの面白みもないのだ。その点で本書はそんなものとは対極にある。
 また本書に素晴らしさは編集が見事なことだ。350ページほどのなかに盛り込まれた内容の濃さも歴史春秋社の編集あってこそだろう。
 本書の最初に取り上げられているのが請戸港そばの酒蔵。この酒蔵の酒が港の船祝いに使われる。また松川浦の海苔(あおのり)養殖の変遷。久ノ浜での潜水漁、そして海の幸の詳細な解説。へたな観光案内より何倍も福島県の魅力を伝えてくれる。
 これほどの文章をあっという間に読ませてくれる文章力にも感心させられた。福島に関心がなくても、読んで損をしない名著。

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歴史春秋社 1420円 2000年

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