食の歴史の最近のブログ記事

 この新井由己さんというのは『とことんおでん紀行』という原チャリで北海道から沖縄まで「おでんを食べて縦断する」という本を書いた人。それだけでも期待するところ大なのだが、今回のは少々もの足りない。たしかに出汁の基本が牛肉にあること。具の黒はんぺん、なると、など静岡ならではの練り物の歴史や、静岡のおでんの特異性など得ることは少なくない。でも情報量として一冊の本を作るには少なすぎる気がしてならない。
 また、この本にはおでん材料としてのイルカのことが抜けているのだ。たぶんほんの大阪万博あたりまでイルカのおでんは珍しいものではなかっただろう。まだまだ牛肉が高級だった頃、ひょっとしたら出汁の基本はイルカの脂身だった可能性だってある。
 大浜公園、草薙球状、おでん横町、地元受けすることが多すぎるのもなんだか嫌な感じ。できれば静岡県人以外にも楽しめるネタが欲しかったな。ということでネットで本を買う怖さを思い知ることになった。
この本のボクの満足度は★★☆と少々不満足。

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 タイトルから「とんかつ」の本であると思うのは早計である。幕末から西欧の文化が洪水のごとく押し寄せてきて、それを短時間で受け入れるというところに幾多の多方面での混乱とドラマが生まれる。明治天皇までかり出しての肉食の普及運動。ウスターソース、またパン、またキャベツなど「とんかつ」に欠かせぬ素材の国産化、また改良。そこで明らかに食の多様化が生まれるのだが、それが簡潔にかわりやすく綴られている。その先に「とんかつ」があるのだ。すなわちここには西洋と和が作り出す洋食の歴史が語られている。
 またボクなど肥満体になり、高血圧で危険な身になりながらもやめられない「とんかつ」の誕生が、西欧と和の混沌の中で生み出されているという結論がでてくる。
 明治28年東京銀座の「煉瓦亭」が生み出した豚肉のカツレツから、昭和4年の今まさにあるような「とんかつ」を生み出した上野の「ポンチ軒」(この店名に小津安二郎の世界がある)。そこにいたる明治以来の食の混合を一枚のロースカツに感じながら、ボクなどより肥満体への道を進むのである。
 ボクの本の満足度は★★★★と満点に近い。

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 この本一万円しても買っていい。素晴らしい内容である。「馬琴の食卓」「若沖『野菜涅槃図』」「マグロ出世たん」「食文化落穂ひろい」など数編からなり、どれも珠玉のものばかり。滝沢馬琴、おみちの詳細な日記をもとにした食生活の話。またその滝沢馬琴の日記にある天保六年のマグロ豊漁。また伊藤若沖の絵に見る18世紀後半、京都に見られた思わぬ果物、青物。平安時代の馴れ鮨、また類聚雑要抄にある様々な海産物。そこにはユムシ、キサゴ、カメノテ、そしてヤドカリの塩辛などが登場してくる。
 さて鈴木晋一という人の本は我が家にも数冊ある。『たべもの史話』『たべもの東海道』これ総て素晴らしいもの。そしてこの方の生年がなんと1919年なのである。たぶん今年、米寿ではないか? お身体に気をつけてもっともっと本を世に出して欲しい。
 ボクの本の満足度は★★★★★と満点。

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