季刊誌と言うことで雑誌の形はとっているが充分に単行本一冊の価値がある。“里海”という概念は「海(自然)はけっして漁師だけのものでも国や自治体だけのものでもなく、そこで暮らす、また多くの人と共有守っていく場所である」とする原則をしっかり見据えて作られた本である。
ここに登場するのは漁師の側から我々一般人にも“里海”に来ませんかという運動をしている『盤州里海の会』。ここでは木更津の現役漁師が「海で生きると言うこと」、「また海を守ると言うこと」、そして「今の東京湾の現状」をけっして現在を否定することなく多くの人に知らしめようとしている。例えば会の目下の目標である「アサクサノリの復活」にかける意気込み、また小櫃川河口に広がる盤州の現状。その活動が非常に丹念にこの雑誌には綴られているのである。
別項の多摩川河口でのアサクサノリの発見者菊地則雄先生のページもとても興味深いものだ。そこに明治42年刊、岡本金太郎の稀覯本『浅草海苔』などを連載載録している。この価値は計り知れないだろう。
また、日本各地での海を巡る開発問題にも特集その2で多くの紙面が割かれている。ここにある諸問題は我々一般人にも避けては通れないことであるのは、この特集でまざまざと見えてくる。
さて、この内容濃いページをめくった最後、グラビアページに懐かしい顔がある。利根川河口小見川町(現香取市)の『うなせん』菅谷敏夫さんである。菅谷さんは利根川の下りウナギを名人芸で焼き上げる千葉県でも屈指のうなぎ職人である。その「ぼっか」と言われる大ウナギの味わいは天下一品。また冬季の野鴨など利根川はいまだに美味の宝庫であるのがこのページからもわかるはずである。
まな出版企画
http://www.manabook.jp/
『盤州里海の会』
http://www.satoumi.net/
この本の満足度、また次回を買いたいと思ってしまったので
★★★★
と満点に近い