2004年の読書日記02

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2004年5月〜11月
本日記は毎日の読書日記(できるだけ魚貝類生物学のものを中心として)であるとともに参考文献の整理にともなう過去に読んだ本の書評も併記している。(敬称略)

11月16日(木)
『北九州の淡水魚 エビ・カニ』(北九州市立自然史・歴史博物館)
★★★★
北九州という地域性をしっかり説明されている優れた図鑑。ヌマエビなど希少な種の画像もきれいである。一般人としては優良な資料として持っていたいもの。700円(地域によっては料金支払い方法によって高くなる場合あり注意が必要。これに関しては堂博物館に改善を求めたい)
『「食べもの情報」ウソ・ホント』(高橋久仁子 講談社)
★★★
世の中の食に関する情報というのは千差万別。いかがわしいものが多すぎると感じる今日この頃ではあるが、これはそんな疑問に答えてくれること多々。900円
『大阪下町酒場列伝』(牧田清 ちくま文庫)
酒の肴を「あて」、しめ鯖が「きずし」とくるとそれだけでおいしい大阪が浮かんでくる。大阪の味の真の部分にあるのが庶民性だろう。そんな大阪の素の面をたっぷり見せてくれる。出てくる料理もうまそうだ。820円
9月16日(木)
『東大講座 すしねたの自然史』(大場秀章 坂本一男 NHK出版)
★★★
すし種として使われるそれぞれの生物のこと、歴史的な文献からの考証など非常に興味深い。多様な生物が生かされてすしの材料となっていることへの自然への優しさなど、これだけでも値段を考えれば価値のある一冊だと思う。ただし、ここには料理(食)としてのすし(これが未来を見せてくれる)が不在であるし、現状から遠くて古いすぎる部分もある。そのために著者の方たちに料理の感性、現状認識が欠如しているようにすら感じさせられる。実際、何カ所かの事項にはあまりに古くさくて「いつの話だ」という文章も散見する。これはたぶん個々の著者の問題ではなく編集がつたないためであるようだ。神保町三省堂1500円
『胡堂百話』(野村胡堂 中央公論新社)
だれでも知っている銭形平次の作者であるが、「あらえびす」としてクラシックレコードの収集家として我が国の音楽評論の嚆矢でもある。エッセイ集として端的に楽しめるのみならず胡堂と同郷・同世代の石川啄木、金田一京助のことなど歴史的にも興味深い。神保町三省堂で590円
9月14日(火)
『青森県 海の生物誌』(平井越朗 東奥日報)
★★★★
昭和30年代後半の本である。ホヤ、ミズクラゲからホタテなど青森県で見られる生き物を非常に丹念に描き見せてくれる。この手の生物学書としては名著のひとつ。神保町明倫館で1200円
『江の川物語 川漁師聞書』(黒田明憲著 中山辰巳ほか語り みずのわ書房)
★★★★★
広島県三次市から江津市までを流れる中国地方一の大河、江の川。この川で暮らし、漁をたつきとしてきた人々の歴史と現状を綴る。歴史民俗学的な資料としても優れているが、ふと我を中国地方の大河に誘ってくれる文章に敬服する。素晴らしい本である。神保町アクシス 2300円
9月09日(木)
『明治商売往来』(仲田定之助 ちくま学芸文庫)
同(続)の2冊
★★★★
日本橋生まれのデザイナーでありエッセイストの著者の日本橋を中心とした街や風俗をわかりやすい文章で綴られたもの。水産物の関わりでは日本橋にあった魚河岸のこと。江戸前のウナギのこと、浅草のりのことなど必読の書。1300円/続1500円
『夫婦善哉』(織田作之助 ちくま日本文学全集)
★★★
小説なのであるが、これは反面貴重な時代資料でもある。著者は大正2年(1913)生まれ、戦後、昭和22年(1947)に逝去しているのだが、大正から昭和にかけての大阪街の情景や風物を描かせると天下一品。出雲屋のまむし(鰻飯)のこと、金麩羅、トリガイのぬたなどまさに庶民がどのようなものを食べていたかまざまざと見せてくれる。1200円
9月01日(水)
『能義奥の民族』(畑伝之助 島根県文化財愛護協会)
★★★
昭和42年(1967年)に出たものであるが、能義の比田というのは現在(2004年9月1日)の能義郡広瀬町(安来市に併合される)の江戸の面影残る明治から昭和初期までの記録である。クジラの皮の利用法や、当地でも土用丑の日にウナギを食べる風習があったことなどがわかる。
『貝毒の謎』(野口玉雄・村上りつ子著 成山堂)
★★★★
貝毒というとまつぶ(エゾボラ)やヒメエゾボラのテトラミン。戦中の浜名湖でのアサリ毒のベネルピンによる大量死など食の上で知っておきたいことがいっぱいある。本書ではそれを専門的にすぎるものの網羅している。
『古里の鏡』(井上靖 中公文庫)
中央公論恐るべしというのは本書のような本を出しているからである。伊豆で幼年時代を送った井上靖の隠れた一面から、あまり本としてまとめることのできない小文まで楽しい一冊。
8月21日(土)
『細谷角次郎 貝類図絵』(池田等著 細谷角次郎絵 奥谷喬司監修 遠藤貝類博物館)
★★★★
神奈川県三浦の「細谷コレクション」が現在の貝の研究に尽くした功績は膨大である。その故細谷角次郎(1884〜1956)の残した図絵を葉山しおさい博物館の池田等先生の文章と解説でまとめたもの。現在ある写真画像の図鑑にはない同定のヒントが隠されている。また美術的にも貴重
『図説人体寄生虫学』(吉田幸雄 南山堂)
★★★★★
魚貝類を食べると言うことでさけてお通れないのが寄生虫のこと。これを図版と明確な文章でわかりやすく解説。9000円
7月13日(火)
『江戸っ子だってねえ 浪曲師廣澤虎造一代』(吉川潮 新潮文庫)
今や吉川潮というだけで手が伸びてしまう。昭和39年に死んだ廣澤虎造は私にとって「バカは死ななきゃなおらない」というフレーズだけの人。その一代記をあっという間に読ませられて、そして浪曲が聴きたくなる。590円
『伊予灘漁民誌』(渡部文也、高津富夫 えひめブックス)
★★★★
瀬戸内海の入り口であり、松山市から佐多岬まで長く続く海岸線の町々を漁とその地の歴史とでたどる。伊予から伊豆までメダイ釣りに遠征したことなど、発見が多々ある。952円
7月11日(日)
『三浦半島のタカラガイ(1)』(しおさい博物館)
三浦半島は軟体類、甲殻類など海産生物の我が国における事始めの地である。その地においていまだに活発に生き物の情報を発信しているのは「しおさい博物館」。本小冊子は貝を好きな人にぜひ持っていてもらいたいもの。なかなか同定が容易ではないタカラガイの初心者の入り口になる
7月01日(木)
『くじら取りの系譜 概説日本捕鯨史』(中園成生 長崎新聞新書)
★★★★★
捕鯨の歴史をこの一冊であるていど頭に入れることができる。クジラ学には入門書的なもの。年代史的に非常にわかりやすく解説してくれる。定価800円
『びっくりのんびり韓国暮らし』(長澤洋 草心社)
魚貝類の情報はほとんどないが、韓国の日常的なこと、すなわちいちばん見えてこないことが満載である。今年は韓国に魚貝を見に行きたいと思って読んだが、これまさに良書だ。
『日本ふーど記』(玉村豊男 中公文庫)
いわゆる食の本である。すなわち全国版の食べ歩き。資料的価値はほとんどなく、その軽快な文章を楽しむもの。佐久の鯉を食べてこれほど「うまそう」な文章を書ける人少なしだろう。
6月26日(土)
『日本産 魚類検索 第2版』(中坊徹次 東海大学出版会)
★★★★★
魚類を同定するに本図鑑なくしてはできない。例えば写真図版などで種を確定するのではなくアプローチの課程で使う。
定価2800円
『魚のシュン暦』(金田尚志 岩崎書店)
★★★
1958年に出版されたもので海の状況が大きく変わってしまった現在にあっては時代的な資料とも言えそう。魚の旬ということでは基本的な知識が得られる。神保町悠久堂で1200円
6月21日(月)
『醤油屋ばなし・海人がたり』(常世田令子 ろん書房)
★★★★
銚子の醤油醸造の歴史、マイワシ漁、イワガキ、利根川の川魚のことなど、丹念に聞き書きしたもの。このような聞き書きを本として手に入れられるのは千葉県の出版業の底力を感じるところ
『新 北のさかなたち』(水島敏博他 北海道新聞社)
★★★★
北海道の産業的な魚貝類の現状をわかりやすく網羅。いわば北海道の水産に対する総合辞典のようなもの。年中使っているもの
6月02日(水)
『東京繁昌記』(木村荘八 岩波文庫)
『墨(字がないので)東奇譚』の挿絵画家であり、生粋の東京町屋育ちの木村荘八のいわば東京(江戸)案内。資料性もある
『たべもの語源辞典』(清水桂一 東京堂出版)
★★★★
この辞典は説明文が明確であり、読み物としても優れている。例えば「時雨煮」や「磯部煮」など料理法なども必ずこの本を見直してから用語する。
5月29日
『ぽんこつ先生島をめぐる 離島の生活』(本木修次 雄山閣)
★★★
1963年に出た本。このぽんこつ先生というのは当時、都立赤羽中学の先生をしながらオートバイのライラック号にのり全国をめぐり、その地の現状をルポルタージュしていくもの。当時の離島生活の過酷なことや、後進性をまざまざと見せてくれる。また飛島のオキタナゴの刺身や奥尻島からエゾアワビの種を全国に送り出していたことなど
5月28日
『断腸亭日乗』(上下 永井荷風 岩波文庫)
大正6年から昭和34年までの、荷風の日常と思いを綴る日記である。その日常の在り方はなにものにも束縛されることなく自由に見えて、その自身の持つ強烈な美意識への拘泥は凄まじい。竹葉亭(ウナギ)、飯田屋(ドジョウ)などの老舗のこと、また大正昭和の食に関することなども興味深い。
神保町、とかち書房にて。750円
5月15日
『かご漁業』(日本水産学会編 恒星社厚生閣)
★★★★
日本の漁業においてかご漁というのは水揚げ量こそ少ないものの重要である。特に底引き網と比べて自然破壊も、対象外の生物の混獲も少ないなど資源を保全することからももっと普及してもいい。ズワイガニ、ケガニ、イバラガニモドキからタラバエビ科までこれ一冊で得るものは多い
5月12日
『酒に呑まれた頭』(吉田健一 ちくま文庫)
疲れたときに手にとってしまうのが吉田健一であるが文章は思った以上に難敵である。一見明朗に書かれた文章が読み込んでみると深い。
『釣りの風景』(伊藤桂一 六興出版)
本日は気のふさいだときの本2冊。伊藤桂一という人は端正なそしてどこか静謐な文章を書きながら、そこからにじみ出てくるものは勝手な思いこみながら凄惨である。野に雑魚を追いながら描く戦後の関東平野の風景が見えてくる
5月6日
『漁食の民』(長崎福三 北斗書房)
★★★
非常に多方面の話題をうまくまとめてある。例えば魚食の歴史、祭りと魚、魚の消費、また生産など。またそれだけに読んでいてとりとめがない。1500円
『日本漁具・漁法図説』(金田禎之 成山堂書店)
★★★★★
これは水産業を調べる上で必帯の本。例えば水産の他の本を読むときにも座右に欲しい。我が国のほとんど総ての漁業のやり方がわかりやすい文章、図で説明している。9800円。
5月5日
『茨城の海の生き物』(中庭正人他 茨城新聞社)
★★★★
各県で様々な図鑑が出されているのだけれど、これは楽しさにおいて出色のもの。海藻から甲殻類、はたまた魚類まで生息場所ごとに登場させてわかりやすく解説している
『水産無脊椎動物学』(椎野季雄 培風館)
★★★★
原生動物から棘皮動物、軟体動物、甲殻類と様々な生物のおおまかなところをわかりやすく並べ解説したもの。門外漢にはいわば図鑑の代わりとしても使える。
5月1日
『くじらの文化人類学』(ミルトン・M・R・フリーマン編著 海鳴社)
★★★★
1989年に出た本であり、これは捕鯨禁止が可決する前年にあたる。捕鯨の歴史、そして捕鯨の町の素顔、そして風習文化など様々な側面からアクセスする。宮城県鮎川のミンククジラ、千葉県和田のツチクジラ、和歌山県太地町のゴンドウクジラなど食にまつわることにも詳しく解説されていて、クジラ学入門書としては最適。


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このページは、管理人が2005年10月 3日 12:22に書いたブログ記事です。

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