二葉亭四迷というと言文一致ということで有名でも、何を書いた人といった曖昧さがある。「浮雲」という代表作が思い浮かばないし、読もうとも思わないのだ。その二葉亭四迷がロシアに渡る年、明治四十一年。そのやや喜劇的ですらある彼の人生はこのロシアへの、旅の帰途で閉じる。若くして「浮雲」という我が国初の言文一致体小説で注目された二葉亭・長谷川辰之助が、役人となり、また新聞記者となりながらも、その強い自我を捨てようとはしない。また、翻訳、評論を発表する折々に明治期の文学界に大きな波紋を投げかける。これに呼応するかのごとく創作活動にのめり込む国木田独歩、田山花袋。また夏目漱石、樋口一葉など明治期の文学者の人生模様が濃厚に盛り込まれている。この本、電車の中で読まない方がいいかも知れない。目的の駅を乗り過ごしかねないからだ。
文春文庫 590円 2003年