2007年1月 4日アーカイブ

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 くりさん、栗原伸夫さんとは一度だけお会いしたことがある。外見からはいかにも紳士然としてボクのようながさつなヤカラには近寄りがたい雰囲気も感じられたが、この本を読んでこの誤解が氷解した。この雑学とはにかみを含み世に出された100扁の章に、ただの蘊蓄ではなく、むしろ人生を語るような深みを感じたのだ。
 この100扁の文章には文献からだけではけっして生み出せない。そこに栗原さんの水産学人生が深く反映しているというわけだ。これを「雑学」とするのは著者の持つ心憎いアイロニーであることは間違いない。
 この100扁をすべてあげることは出来ないのだが、そのいかにも栗原さんならではの章は「十和田湖のヒメマス」ではないかと思う。この書き出しに彼の伝説の人を「和井内さん」と書きだしている。なぜ「和井内さん」と「さん」がつくのかは読むほどに判明する。この快挙を成し遂げた十和田湖での事業を東京水産大学(現海洋大学)の学生であった著者は今で言うアルバイトとはいえ実見しているのだ。この時代の内水面での養殖の意味合いも著者は身をもって知っているわけで、当然伝説の和井内貞行に会っていなくても無意識に「さん」がついてしまう。
 この水産学のコラムの良さはそれだけではない。「芦ノ湖のブラックバス」、「第5福竜丸の生涯」、ついつい知ってるつもりで、曖昧な史実、項目が的確に抑えられている。この分厚い本は我がかたわらにいつも置いておきたいものである。
この本のボクの満足度は★★★★と満点にちかい。

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 タイトルから「とんかつ」の本であると思うのは早計である。幕末から西欧の文化が洪水のごとく押し寄せてきて、それを短時間で受け入れるというところに幾多の多方面での混乱とドラマが生まれる。明治天皇までかり出しての肉食の普及運動。ウスターソース、またパン、またキャベツなど「とんかつ」に欠かせぬ素材の国産化、また改良。そこで明らかに食の多様化が生まれるのだが、それが簡潔にかわりやすく綴られている。その先に「とんかつ」があるのだ。すなわちここには西洋と和が作り出す洋食の歴史が語られている。
 またボクなど肥満体になり、高血圧で危険な身になりながらもやめられない「とんかつ」の誕生が、西欧と和の混沌の中で生み出されているという結論がでてくる。
 明治28年東京銀座の「煉瓦亭」が生み出した豚肉のカツレツから、昭和4年の今まさにあるような「とんかつ」を生み出した上野の「ポンチ軒」(この店名に小津安二郎の世界がある)。そこにいたる明治以来の食の混合を一枚のロースカツに感じながら、ボクなどより肥満体への道を進むのである。
 ボクの本の満足度は★★★★と満点に近い。

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